輪に入らず孤にもなれずに夏雲雀
遠雷や残すものなどなにもない
たよりなき愛などいらぬ草雲雀
うすあかねさみだれ雲に顎の月
髪を切り万縁にわれ光合成
恋の関選挙お七の春なんぼ
天才か狂気の沙汰か恍桜
彼とゐる蟻の歩幅のしあわせに
ポケットにマリアの月の子が宿る
オラシナネ祖母が逝きたる夏の雲
方丈の居るほどの空瑞川寺
大正は旅人のうた梅酒はむ
短夜はナースの足音心電図
永遠のうそつきとおす夏の雲
睡蓮の手のひらゆられ児は生まるる
流星をトラックに見る夜ふけ前
軽口を交わして墓を洗ひけり
くる来ない人待ち歌は居待ち月
うろこ雲月はけされてさそい船
いちじくを煮つめる香せり夕げ前
かりん酒は“のみごろです”と神渡し
雪迎え光りて君の細き足
おととしのかりん酒をのむ木枯らし夜
懐手心の口にあててみる
クリスマス街の中みなにわか耶蘇
賀状書くその手を止めて訃報きく
寒牡丹赤子の首をひねるおと
立春に願かけだるまの墨をする
病室の祖母は児還り紀元節
くるまいすまるまる父の背ずわい蟹
たつたつと垂氷のプリズム乱反射
すぐ消えるわたくしの恋雪のはて
たかが恋手腕に刃物たかがこひ
{俳句開始時:昭和60年頃〜平成七年十月詠む}
妃南というひな鳥ふえて雛の家
ゴールデンウイークという孤独あり
輪に入らず孤にもなれずに夏雲雀
夏雲雀わずかばかりの夢を芻む
蓬誰にも不用とも言われず
遠雷や「サヨナラ」集まる日もありき
モリヨーコ逝きたる刻の夏帽子
芍薬をワタナベハマコとたとえけり
梅筵指紋の迷路染め出しす
放射能生きるためとて原爆忌
ジャニーズの少年おどる原爆忌
エノラゲイパイロットもまた原爆忌
遠花火電話ばかりの恋のやふ
よし!曇り障子貼る湖火にかけて
赤とんぼ人差し指とあっちむいてホイ
とつぐひのきんもくせいのかおりかな
三時すぎ四時すぎのこと九月尽
臨界という言葉を知りて九月尽
ため息は釣瓶落としを加速させ
同級生は医師吾原石のまま夜の霧
遠花火あの女が今星になる
立冬や放射冷却朝陽射す
四温日やペットボトルに陽をあつめ
上棟を終大師にあわせけり
あと三枚書きだしかねてる賀状あり
寒三日月バーテンダーの指づかひ
つらつらとつららつらなるつらかまえ
姑と呼べる女来て冬うらら
{平成七年十月〜平成十一年十月詠}
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